僕の活動コンセプトは大人が本気で遊ぶなのですが、これを言うと色々なイメージを持たれます。よくあるのが「好きを仕事にするってことだよね?」に結び付けられること。
もちろん、僕は「好きを仕事に」に関しては完全肯定派で、自分自身もそこを目指したいと思ってます。が、僕の言いたい本気の遊びはそこに限定した話ではありません。
キラキラしてなくてもいい。何のメリットもないようなことを本気で楽しむ姿も追求したい。みんな意味があることを求めすぎなんですよ。もっとくだらないこともしたい。どこまでが冗談でどこまでが本気かわからないような…そんな遊びも最高じゃないですか。
そんなくだらない本気の遊びの理想的な教科書ともいえる本がこちら。
さくらももこの焼きそばうえだ
今日はこの本をみなさんにオススメしたい。帯に「爆笑と感動のドキュメント・エッセイ!!」とありますが先に断言しておきたい。
爆笑はともかく、感動などありません!
この帯を書いた人は一体どこを指して感動というワードを使ったのか…それともくだらなすぎて逆に感動したのか。
そしてこの焼きそばうえだを語る上で欠かせないことがある。それはなにか?
それは、さくらももこ史上最も評判が悪い作品だということです。
焼きそばうえだ あらすじ
というわけでまずはあらすじから。
小学生の男子レベルのくだらない話を延々としゃべることを目的に結成された「男子の会」。ひょんなことから仲間の植田さんのためにバリでヤキソバ屋を始めることに…!? ヤキソバの研究、看板描き、現地での交渉…と、開店までの数々の難題に、著者自らが全力投球。「車内から外の景色を見ていると、路上で直接火を燃やして何かを焼いて売っているような人もちらほらいたりして、最悪の場合は自分達もああいう売り方をしなくてはならないかもなァ…と思ったが、まさかそこまで最悪な事にはなるまいとも思った。」(「苦戦」より)テーマは友情…なのに爆笑!! さくらももこが贈る、冗談のような本当の話!!
これが焼きそばうえだのあらすじ。
これだけ見るとなんのことかわからないかもしれないけど、ここに書いてある通りの内容。植田さんという誰も知らないであろう一般人をイジるだけの話です。すごいのはただイジるだけでなく、実際にバリに焼きそば屋を開店させるところまでやるという…その一連の流れをさくらももこ独特の笑える文体で書いているわけだからおもしろい。くだらなくて笑えます。
ただ、この一連の流れを見てパワハラとかイジメだと感じる人も多いようで、そこがこの本の悪評につながっているわけなんですね。
Amazonレビューがひどい
試しにAmazonに書かれたレビューを少し見てみてほしい。
いい年こいた大人が悪ふざけ過ぎ
まさにこの通りでなんの反論もございません。それを不快に思う人がいても仕方ないのかな、と思います。ただ、僕はそれをおもしろいと感じてしまった。
上から目線で「友達」を小バカにしてこき下ろし、笑いものにする
これは受け取り方は人によるのかな、と思います。少なくとも僕の目には「めちゃくちゃ仲よさそうで楽しそう」とうつりました。実際のところは本人達にしかわからないでしょう。
ただ、やってることは控えめに見ても「褒められるようなこと」でない事だけは確かです。マジでくだらないことに全力。お金もかかってる。そこを成金の悪趣味と言われるのもわからんでもない。
ただ、さくらももこはいつだってありのままをバカらしく書いている。貧乏だったころは貧乏だった自分をバカらしく。裕福になった後は裕福な自分をバカらしく。全力で人生をおもしろがっている姿は変わらない。
さくらももこのブラックユーモア
国民的人気マンガとなったちびまる子ちゃんのイメージが強いのか、さくらももこを「ほのぼのとした平和なマンガ」を書くと思ってる人も多いのかもしれませんが、さくらももこの真骨頂はブラックユーモアです。ちびまる子ちゃんもよくよく読んでみると結構ブラック。セルフパロディのちびしかくちゃんは相当ひどいです。
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この焼きそばうえだでも何が酷いかって植田さんの扱い。男子の会の集まりで不在だった植田さんの話題が盛り上がるところから話が始まるんだけど、そこでの会話内容がまぁまぁひどい。
- 家が会社から遠くて狭い
- そんなマンションなのに買ってしまったのでローンがある
- いざという時、男として役に立たない
こんな調子でとにかく植田さんの身の上をかわいそうとして語っていく。さらには話は植田さんの見た目や外見にも及ぶ。
- スーパーに買い物に来ている、中年の女に似ている
- ドラえもんに似ている
どうフォローしてもただの悪口としか言えないような話がどんどん出てくる。先ほどのレビューはこの辺からきているということは言うまでもない。あのレビューが荒らしなどではなく真っ当な感想だということがわかるだろう。植田さんのようにマンションのローンが残ってる人もいるだろうし、そんな立場からすると自分がバカにされてるように感じても仕方ないだろう。
植田さん不在で繰り広げられた植田さんの話はこの後も大いに盛り上がり、ついにはTBSを辞めて自己破産してバリで焼きそば屋を開いた方が幸せだという結論に至り、植田さんに報告することなくその方向で話を進めていくという畜生さ。
内容ももちろんだが、ところどころ見られるさくらももこの心理描写に「思ってもそこまで書く?」と、人間としてそれはダメだろ!と思ってしまう。でも読んでると「いやぁ…確かに自分もこんなクズなことを思ってしまうところあるよな」というようにも思える。思ってしまうのは仕方ない。けど、それを言う…さらにはエッセイにまでするのは並みの精神力ではできない。できるはずがない。だからおもしろいのだ。さくらももこは…
中でもインフルエンザのワクチンが人数分無いことで、誰を助けるかを深刻に考えて悩むシーンはちびまる子ちゃんそのものと言える。人間のダメで、どうしようもなくて、畜生な部分が存分に発揮されている。そこを書けてしまうのがさくらももこという性悪で、それこそが魅力なんだということを言いたい。
焼きそばうえだのように、冗談を本気にしたい
最終的にさくらももこを筆頭に男子の会はバリに焼きそば屋をオープンさせてしまう。なかなかできることじゃないし、やる必要もない。現在は閉業しているようだが、さくらももこが実際に描いた看板は見れるようで、いつかバリに行く事があれば見てみたいと思う。
この看板がめちゃくちゃかわいくてまる子も描かれてるんだけど、これを仕上げる時のエピソードがまたおもしろいんだ。まぁこれは気になったら是非読んでみてほしい。
この焼きそばうえだは、見る人によっては不快な想いをさせてしまう作品となっている。確かに実在する一般人にちびまる子ちゃんのブラック回で行われているようなことを大人がやっていては、非難を浴びてしまうということもわかる。
でも、僕はイジられる植田さんを見て「なんとも愛らしい人だなぁ」と思ってしまう。イジメとイジりの境界線は信頼関係があるか?によって決まる。さくらももこと植田さんに関係性がなければイジメと言われても仕方ないと思うけど、なんだかんだで植田さんも困惑しながらも会社が倒産しても焼きそば屋がある…というようなことを奥さんと話している。知らない人だけど、植田さんがみんなから愛されてイジられてるのがわかる。そこを書けるのがさくらももこの才能だと思う。
僕もこんな風に冗談で始まった話を本気にするパワーがほしい。これこそ大人の本気の遊びと言えるのではないかと思う。ただ、相手との関係性はしっかり意識することは忘れずに。
さくらももこ最大の問題作と言われるこのエッセイ。是非読んで感想を聞かせてほしい。おもしろがれる人は僕に連絡ください。一緒に人生をおもしろがりましょう。