7歳のうちの娘が最近『えほんまんが』なるものを書いている。『えほんまんが』とは絵と文章による物語調の作品で、個人的には「それって絵本なんじゃないの?」って思って聞いてみたが「えほんまんがは絵本じゃないよ。えほんまんがだよ。」と、言い切られた。なるほど。説得力って言い切ることだな、と思った今日この頃。ちなみに100話まであるらしい。
そんなうちの娘だが、漫画家になるのが夢だそうだ。小さい頃からたまにそんな事を言っている。本気かどうかわからないけど、今日も朝6時に起きて「えほんまんが」をコツコツ書いてるから、もしかしたら本気なのかもしれない。
漫画家になるというのは大変な夢だ。でも、娘の描いた『えほんまんが』を読んでると親バカながら可能性があるんじゃないかとも思う。
夢を目指すという事は、痛みを伴うこともあるだろう。親としては娘には常に楽しく笑って生きていてほしいけど、夢を持ってしまったならば、痛みを乗り越える必要がある時も来るだろう。そんな時に何か支えれる事はないか…と、考えた時に思い出した本がある。
それが、さくらももこさんの『ひとりずもう』という作品。言わずと知れた国民的まんがちびまる子ちゃんの作者。この本は作者自身の青春を描いたもので、気持ちが揺れ動く思春期の学生時代から、夢をかなえて漫画家になるまでが描かれている。
当初はエッセイとして発売された作品だが、漫画版も後に発売されている。今回おすすめしたいのは漫画版。僕は娘が大きくなって「漫画家になりたい」というならば…いや、漫画家に限らず夢を持ったり、自分に自信が持てないようなことがあるならば、この本を薦めたいと思ってる。
久しぶりにこの『ひとりずもう』を読んだんだけど、やっぱりいい。世の中の娘を持つお父さん方にも是非読んでおいてほしい。そんなわけで、今回は『ひとりずもう』の感想含むおすすめポイントを紹介しようと思う。
目次
ひとりずもう漫画版ストーリー
改めてまずは『ひとりずもう漫画版』のストーリーから。『ちびまる子ちゃん』は作者が小学三年生の時を舞台にした話だったのに対して、『ひとりずもう』は小学五年生からスタート。そこから中学生、高校生と成長していき、漫画家デビューまでが描かれている。印象的なのは『まるちゃん』ではなく『ももちゃん』と呼ばれているところ。『ちびまる子ちゃん』ではバカばっかりやってたまる子が大人になっていく様は、ちょっと現実の寂しさを感じたりもする。そんなまる子の青春を描いた物語である。
ひとりずもう漫画版の好きなところ
では、この作品の好きなところを紹介したいと思う。なんといっても「まる子の青春」というだけでファンとしてはたまらない設定なのだが、その表面的な期待を充分上回るすばらしい内容になっている。
リアリティあるストーリーに引き込まれる
まず、おもしろいなと思うのが、ほとんどの人が『ちびまる子ちゃん』と『さくらももこ』を知っているというところにあると思う。多くの人が、小学三年生のちびまる子ちゃんと漫画家さくらももこは知っているけど、その間に何があったかを知らないということだ。
作中でさくらももこさんが「漫画家になりたい」と思うシーンが何度もあるが、ほぼ全ての読者は夢がかなって漫画家になれていることを知っている。つまり、成功する結末がわかっている。しかし、その過程にどんな悩みや葛藤があったかを知らない。
この『ひとりずもう』ではそこが描かれているのがおもしろい。なれるかどうか?の結果ではなく、過程においてどんな心情だったかにフォーカスが当たっているからおもしろいのだ。
「私なんかが漫画家になれるわけない」と、全体を通してネガティブに考えている場面が多く、高校三年の春休みで初めてりぼんの賞に応募するのだが結果は落選。そこで一度夢を諦めるシーンまである。めちゃくちゃ才能がある女の子が「私は絶対に漫画家になる!」と信じて突き進んでいく話ではなく、「漫画家になりたい」という想いすら口に出せない、ネガティブな女の子の葛藤の物語。
最後にはあるきっかけから「自分は漫画家になりたい、絶対なる」と強く言えるようになる。そこまでの心情の変化は、きっと夢を見ることに不安な思春期の女の子には刺さる物語だと思う。
漫画家になったさくらももこさんの活躍を知っていれば知っているほど「あのちびまる子ちゃんの作者がこんなに悩んでたんだ…」と意外に思うことだろう。どこにでもいる普通の女の子。むしろ、周りと比べて青春を謳歌できてないちょっと地味めな女の子。そこにリアリティを感じ、引き込まれる。
がんばろうと思えるエピソードがある
ネガティブで「私なんかが漫画家になれるわけない」と思っている学生時代のさくらももこさん。
あることをキッカケにその想いは確固たるものになるんだけど、実はそのキッカケに至るまでにも「きっとこの出来事が漫画家になりたいという基盤になったんだろうなぁ」と思えるシーンがいくつかある。その中で僕が印象深いのは桜のエピソード。高校二年の春休みに桜を見てこうつぶやいている。
「…誰かが見ても見なくても、毎年咲くんだよね…いいなぁ…」
本格的に漫画を描き、りぼんの賞に応募するのはこの一年後。この時点ではまだ作品を描いてはいない。一年後、夢中で作品を仕上げている途中、アルバイト帰りに舞う桜の花びらが目に入り「…今年はさくらを見るのも忘れてたな…」と思い浮かべるシーンにつながる。がんばって漫画を描いても報われるとは限らない。夢を追うというのはそういうことだ。くじけそうなとき、きっとさくらももこさんは「誰かが見ても見なくても、毎年咲くさくら」に自分を重ね、がんばっていたのではないかと思ったりする。こんな風に作中には「がんばろう」と思えるエピソードが散りばめられている。
もうひとつ大事なことがある。その高校二年の桜のシーンは友人と一緒に遊びに行った先で見ているんだけど、その横にいたのは誰か?それがちびまる子ちゃんにも出てくる親友のたまちゃん。この桜のスポットを見つけたのはたまちゃんだったのである。
この『ひとりずもう』は、漫画家デビューというテーマの他に、もうひとつ大きなテーマがある。それがたまちゃんとの友情だ。
漫画家の夢とたまちゃんとの友情。
この二つは切っても切り離せない。この桜をたまちゃんと二人で見たシーンは、実は漫画家になる夢を支えたのはたまちゃんの存在だったということを揶揄してるのではないかと思ってる。
ちなみに、漫画家デビューが決まった時、たまちゃんに向けて「いつか私の漫画にたまちゃんのことを描きたいと思います」と手紙を書いている。この『ひとりずもう』はたまちゃんに向けて描かれているということは間違いないだろう。
笑いの要素がしっかりある
さくらももこさんの作品としては叙情的で情緒の深い本作品。巻末のあとがきではこんな風に書かれている。
描く前のイメージでは、笑って泣けるドタバタコメディみたいな感じの作品になるのかなと思っていたのですが、描き始めてみると、自分でも予想外なほどリリカルな感じの漫画になり、毎回描くたびに新鮮な気持ちになりました。私は今まで、どちらかといえば笑いを中心に描いてきた作風だったので、情緒的な作品を描く事が毎回新鮮だったわけです。
絵柄もちびまる子ちゃんとは少し異なり、まる子の目が澄んでいるというか…どこか透明で儚い世界観で描かれているのは間違いない。
にもかかわらず、しっかりと笑いの要素を盛り込んできてるのが、さすがさくらももこだといえよう。特に漫画家の夢を諦めたあと。あれだけおフロで泣いて諦めた夢だというのに、すぐに落語家になろうと考えていたりする。なんだかんだ言ってもあの『まるちゃん』なんだなぁと笑える。シリアスな場面でもこういうシーンを見せてくるところがさくらももこファンにはたまらない。
まとめ
今回は『ひとりずもう』の漫画版の好きなポイントを3つに絞って伝えてみた。まだまだ語りたいところはたくさんある。そのくらいこの作品は全編にわたっておもしろい。特に漫画家になると決意するエピソードからはいろんなことを感じ取れると思う。これについては本記事では書かないので、是非本作を読んでみてほしい。国民的人気漫画家になったさくらももこさんが「漫画家になれたらいいな…」から「漫画家になりたい、きっとなれる」に変わった瞬間を是非見てほしい。
さぁ、うちの娘は大人になっても漫画家になりたいと言うのだろうか?その夢を支えてくれる良き友人には出会えてるのだろうか?いずれにしても、大きくなったらこの作品を読んでほしいなぁと思う。きっと何か感じ取れることがあるに違いない。
最後に。すばらしい作品を残してくれたさくらももこさん、本当にありがとうございました。僕はやっぱりあなたが描き残してくれた世界観が大好きです。
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